肖像権侵害で発信者情報開示請求が届いたので自分で書いた件

こんにちは。KYOです。

今回は、発信者情報開示請求のお話です。

私は過去に複数回に渡って発信者情報開示請求を受けており、その内の1件は訴訟にまで発展し、最高裁まで上告されました。

その時は名誉毀損を理由として訴訟(開示請求)でしたが、本記事では「肖像権」を理由とした開示請求について解説いたします。

事件を特定されないために時折フェイクを入れておりますが、事件の大枠は事実です。

また、回答書の作成に当たっては弁護士に相談しておらず自分で用意したものであるため、あくまでも参考程度に留めて下さい。

迷惑動画を転載したところ、発信者情報開示請求が届いた

私の元に届いた発信者情報開示請求がこちらです。

2枚目の通知には「侵害されたとする権利」として肖像権と記載されていますが、そのきっかけは”ある迷惑動画”を自身のブログに転載したことでした。

2023年1月、スシローを訪れていた少年が自分の唾を寿司に擦り付けるなどした動画がSNSに公開されたことで迷惑動画は一種の流行にもなりました。

このスシロー事件以降、SNSではこの手の迷惑動画が次々と告発され、連日のようにニュースでも取り扱われるようになりました。

こうした迷惑動画の内、”ある動画”を私のブログで解説したところ、その行為者(以下、申立人と言う。)から肖像権を理由に発信者情報開示請求を受けたというわけです。

問題の動画は多くの人間によって拡散されていたため、恐らく、その申立人は私以外の人間にも発信者情報開示請求を行っていると思われます。

肖像権を理由とした発信者情報開示請求は今回が初めてでしたが、肖像権が保護される条件や、肖像権侵害が認められない条件を調べ上げ、自分で回答書を作成しました。

肖像権とは?

実際に回答書を掲載する前に、まずが肖像権について簡単に解説いたします。

肖像権とは、自分の容姿を無断で撮影されたり、公開されたりなどしない権利のことです。

肖像権には「プライバシー権」と「パブリシティ権」がありますが、今回の事件では前者のプライバシー権の侵害が問題とされています。

パブリシティ権は著名人が持つネームバリューを財産として保護するもので、通常、一般人に同権利は適用されません。

今回問題とされる肖像権の侵害ですが、申立人は自分の容姿を無断で転載されたことが同権利を侵害すると主張しているわけです。

確かに、一見すると申立人の主張は正しいように思えますし、私には反論の余地がないように見えます。

ただ、私はこの主張に徹底的に反論し、今回の開示請求を退けることに成功しています。

この開示請求を受けてから既に1年以上経過していますが、申立人がプロバイダに対して訴訟を起こしたという事実もないことから、恐らくはこれで幕引きだと思われます。

次項では肖像権の侵害が認められないケースについて解説いたします。

肖像権の侵害が認められないケース

肖像権の侵害が認められない一般的なケースが以下の通りです。

(1)個人(被写体)が特定できない場合

(2)拡散の恐れがない非公開の空間である場合

(3)撮影場所が公共の場である場合

(4)撮影・公開の許可がある場合

ただ、今回のケースでは上記(1)~(4)を根拠にして、申立人の肖像権を侵害していないと反論することは出来ません。

なぜなら、今回の事件では申立人の取り巻きが申立人の迷惑行為を撮影し、それをネット上に公開しているからです。

確かに私は問題の動画を自分のサイトに転載しましたが、元々の動画は私自身が撮影・公開したものでありません。

そのため、通常の「肖像権侵害が認められない条件」を根拠に反論しても、今回のケースでは意味を成さないのです。

申立人の主張に反論するために、まずは相手方の主張を確認していきましょう。

申立人の主張とは?

プロバイダから送られて来た申立人の主張がこちらです。

申立人の主張を以下に簡潔にまとめます。

(1)迷惑動画を撮影・公開したのは友人である

(2)申立人は動画が撮影されていたことを知らなかった

(3)申立人は動画の撮影・公開を許可していない

(4)動画が転載されたサイトは広告目的で、公益性がない

肖像権は本人の許可なく容姿を撮影・公開されない権利であるため、申立人はこの点を強調して権利侵害を主張してきました。

つまり、申立人は、私が迷惑動画を転載したことについて「自分に無断で動画を公開した」と主張しているわけです。

更に、私のサイトに広告が掲載されていたことを理由に、「動画の転載は経済目的であり、公益性はない」と主張しています。

実は、肖像権には権利侵害が否定されるための条件が明確に定められているわけではありません。

名誉毀損には「違法性阻却事由」という条件が明確に規定されており、これを満たすと名誉毀損が免責されます。

ところが、肖像権には明確な違法性阻却事由が存在しないため、肖像権侵害に当たるかどうかは個々のケースで判断するしかないのです。

「肖像権侵害に当たる場合」や「肖像権侵害には当たらない場合」という大まかな基準こそありますが、実際にはそれらは参考程度に過ぎず、ケースバイケースで判断されるというのが実情です。

そのため、私は肖像権侵害に当たらない場合を参考にしつつ、申立人の主張に徹底的に反論する形で回答書を作成しました。

肖像権侵害に対する回答書の書き方

本項では肖像権侵害に対して私が作成した回答書の一部を掲載します。

ただ、事件が特定されないために個人名や団体名は伏字とし、また、核心部分については省略しておりますので予めご了承ください。

肖像権は無制限に保護されるわけではない

本件請求によると、申立人は動画の撮影・公開に同意しておらず、それを根拠に肖像権の侵害を主張しています。

確かに、本人の了解を得ずに動画を撮影・公開した場合は肖像権を侵害すると解されていますが、それは一般論であり、実務としては侵害されたとする情報の属性や公表の正当性などを総合的に勘案し、個々に侵害の有無を判断することになります。

たとえ当人の権利を侵害する行為でも、公表の目的に正当性や必要性があり、かつ、その内容が公共の利害に関する事実に係わることであれば、違法性は阻却されます。

これを前提にして、申立人が及んだ行為の持つ意味や、その動画を公開することの社会的意義について考察し、権利侵害の有無を検討します。

動画の撮影・公開について、申立人は「黙示的に同意していた」と解される

申立人の行為が友人によって撮影されましたが、係る行為の撮影・公開について申立人は同意していなかったと主張しています。

しかし、動画の撮影および公開の同意については慎重に検討する必要があり、申立人の申告のみを以て「権利侵害が明らかだ」とは言えません。

なぜなら、申立人が肖像権の権利侵害という名目で訴えを起こしている以上、たとえ同意があったとしても、「撮影・公開には同意していない」と主張するからです。

申立人が動画の撮影・公開について同意をしていなかったことを示す客観的な証拠がない以上、自身の都合に合わせて証言を変遷させることができ、それによって真実をも改竄することが可能となります。

そのため、撮影・公開について同意があったのか否かについては、動画が撮影された当時の状況や、撮影された場所、申立人の人間性や普段の言動などを総合的に考慮し、客観的な事実およびそれに基づく考察によって合理的に判断すべきです。

これを前提に問題の動画を検証すると、申立人は動画の撮影・公開を「黙示的に承諾していた」と考えるのが妥当です。

その理由は以下の4つ(a~d)です。

(a)動画が至近距離で撮影されており、なおかつ隠し撮りではない

本件動画は申立人と同席の人物が撮影したものであり、極めて近い距離から撮影が行われています。

また、カメラも申立人が容易に視認できる位置(角度)に存在しているため、この近接距離で行われた撮影に本人が気づいていなかったはずがありません。

さらに、撮影者は、申立人を至近距離から撮影しています。

(中略)

これが隠し撮りで行われた場合であれば、申立人はカメラの存在に気が付かないため、撮影・公開の同意がなかったという抗弁も成り立ちます。

しかし、この撮影者は堂々とカメラを出して一連の行為を撮影しており、時にはカメラを申立人に向けています。

(中略)

加えて、本件動画の再生時間は12秒間であるため、撮影者は最低でも12秒間はカメラを友人たちの面前で構えていたことになり、申立人を含めた同席者がその事実に気づいていなかったはずがありません。

この事実からも、申立人は自身が撮影されていることを自覚しており、その上で嬉々として本件行為に及んだということに疑いの余地はありません。

(b)申立人は撮影・公開を拒否していない

申立人は「撮影者から動画をアップすることの承諾を求められなかった」と主張し、さらには、動画が公開されている事実を知らなかったとも述べています。

これはつまり、申立人は動画の撮影・公開の可否について自ら確認することもせず、そのことについて明確に拒否していなかったことを示す証左でもあります。

(a)にて説示した通り、一連の行為が撮影された状況から考えて、申立人が撮影の事実を一切知らず、また撮影を承諾していなかったとする主張には無理があります。

それどころか、「一般閲覧者の普通の注意と読み方」を基準に動画の内容を検討すれば、撮影されていることを知っていながら、嬉々として本件行為に及んだと考える方が合理的です。

一般的に自身が撮影されていることが分かれば、撮影の可否について、明示的・黙示的かを問わず何らかの意思表示をするはずです。

申立人は自身にカメラが向けられているにも拘わらず、顔を隠すなどして撮影を拒否したり、本件行為を躊躇するような素振りは一切ありませんでした。

むしろ、周囲に煽られたことで自ら率先して本件行為に及んでいることから、申立人が撮影を拒否していなかったことは自明です。

また、通常であれば、第三者が自身を撮影していることに気づけば、当然のこととして、その次には「動画が公開されるのかどうか?」という点に考えが及びます。

しかし、申立人は動画の撮影・公開について撮影者に何も告げていませんでした。

申立人がカメラを向けられてもそれを拒否せず、あまつさえ、本件行為を躊躇するどころか嬉々としてそれに及んでいる事実を考慮すれば、動画の撮影・公開については「黙示的に承諾していた」と考えるのが自然であり合理的です。

少なくとも、眼前に12秒もの間カメラが存在し、時にはそれが自身に向けられ、さらには手元にまでカメラが近寄っている状況にも拘わらず、「撮影を許諾していたわけではない」とする申立人の主張よりも遥かに説得力があり、合理的であることは明らかです。

(c)本件行為が行われた店には個室がなく、常に周囲の目に留まる状況にあった

本件行為が行われた店舗には個室や半個室がなく、テーブル席が55席あるだけです。

これらのテーブル席には仕切り板などもないため、店員や一般客など常に周囲の目に留まる環境でした。

それにも拘わらず、申立人らは店内で騒ぎ立て、自らの行いを秘匿するどころか周囲の注目を集めるような行動に出ています。

こと申立人に至っては、自身にカメラが向けられている状況下でそれを拒むこともせず、視認性の高い店内で本件行為に嬉々として及んでいることから、その行動は自己顕示欲や愉快犯的な心理から出たものと考えられます。

この点からも申立人が撮影を承諾していなかったとは到底考えられず、撮影・公開を黙示的に承諾していたことを補強する要素と言えます。

さらに言えば、本件動画の右下には「やっぱり××(申立人の名前)」との文言が記載されています。

「やっぱり」とは「予期した通り」や「案の定」という意味の言葉であるため、申立人が係る行為に及んでも何ら意外性はないことが示されています。

申立人が普段から本件行為に類する言動をしているからこそ、撮影者は「やっぱり」という文言を用いているわけです。

申立人の普段の言動や人間性なども考慮すれば、今回のみに限って撮影を承諾していなかったとは到底考えられず、実際のところ、申立人が撮影を拒否する所作は一切ありませんでした。

また、申立人は本件行為については「笑いのネタ」程度にしか考えていなかった節が窺えます。

それは今回の動画が炎上した「後」になって初めて、申立人はオーナーに謝罪の電話を入れているからです。

本件行為を行った直後での謝罪であれば、それは罪の意識から出たものと評価することができます。

しかし、申立人が謝罪を行ったのは、本件動画が最初に投稿されてから約2年が経過してからでした。

それも、謝罪の契機となったのは本件動画が炎上したためであり、炎上していなければ、現在でも謝罪せずにいたことが容易に想定できます。

事実、本件請求では申立人の行為が「多少羽目を外した悪ふざけ」などと述べられており、当人は現在においても自身の行為が店舗や社会に与えた悪影響を認識しておらず、反省もしていないことを示しています。

つまり、この謝罪は罪の意識から出たものではなく、「騒ぎになったから謝罪した」という程度のものに過ぎず、本件行為が孕む犯罪性を申立人が自覚していなかったことを裏付けるものです。

申立人が本件行為を「笑いのネタ」程度にしか捉えていなかったことを踏まえれば、本件動画の撮影・公開を欲していなかったとは言えず、むしろ、それについて黙示的に同意していたと考える方が自然です。

確かに、撮影者である友人は申立人に撮影・公開の承諾を明示的に求めてはいません。

しかし、この撮影者は高校時代からの友人であり、「やっぱり××」との文言からも、申立人の人間性を十分に把握していたと解されます。

さらに、(a)でも述べた通り、撮影者は申立人を陥れる目的で動画を撮影・公開したわけではありません。

つまり、撮影者が申立人から明示的な承諾を得る前に動画を公開したのは、普段の言動から申立人の人間性を理解していたからであって、そこには黙示的な同意があったからだと考えるのが普通です。

これを証明するかのように、申立人は撮影を一切拒否することなく嬉々として本件行為に及んだ上で、動画公開の可否については何も告げず、その後も公開の有無についても何ら確認していませんでした。

これらの事実から、申立人は撮影・公開に関して黙示的に同意していたと考える方が自然であり合理的です。

(d)動画の拡散についても黙示的に同意、もしくは想定していたと解される

申立人および同席者は本件行為を「笑いのネタ」として捉えていたことが認められるため、第三者による動画の拡散についても同意もしくは想定していたと考えるのが自然です。

実際のところ、本件請求においても、申立人が他者から強制されて本件行為に及んだとする記述は存在していません。

そのため、申立人が本件行為に及んだのは自らの意思であり、なおかつ、周囲の人間も行為を制止するどころか申立人を煽る言動をしていることから、当事者らが本件を笑いのネタとして捉えていたことは間違いありません。

これを補強するように、本件請求では申立人の行為が「悪ふざけ」と表現されています。

これらの客観的事実を踏まえれば、当事者らが笑いを目的に本件行為に及んだことは明らかです。

(中略)

一般的に考えて、笑い目的で撮影された動画であれば、多かれ少なかれ、「周囲に見て欲しい」という欲求が生じるものと解されます。

そうすると、その内容が拡散することは当事者にとって想定の範囲内のことであり、場合によっては、拡散はむしろ望んでいた事態とも言えます。

申立人らが本件行為に及んだ当時の状況を考えれば、これと同じく笑い目的であったことは優に認められることから、前記説示の通り、動画の拡散についても黙示の同意(または想定)があったと考えるべきです。

しかし、当然のことながら、申立人は肖像権の権利侵害という名目で請求を起こしている以上、一貫して「同意はしていない」と主張するほかありません。

ただ、その真意を客観的に裏付ける証拠が一切ないことから、撮影・公開・拡散の同意(想定)については、撮影時の状況や申立人の言動なども全て含めた上で、「弁論の全趣旨」のように総合的かつ合理的に判断すべきです。

本件は極めて公共性が高い事案である

代理人は申立人の行為について「多少羽目を外した悪ふざけ程度で悪質性はない」と述べています。

(中略)

しかし、これが世間の大多数を占める見解であれば、今回のように批判が殺到する炎上状態にはなっていません。

世間の大多数が代理人の主張とは相容れないからこそ、ここまでの炎上に発展しているわけです。

事実、今回の迷惑行為によって、被害に遭った店舗は設備の交換を余儀なくされています。

設備の交換には数百万円のコストが掛かるだけではなく、被害店舗のオーナーは家族や従業員がイジメに遭うことも懸念していました。

(中略)

この一件はマスコミも取り上げる事態となっており、「個人の問題(モラル)」という範疇を大きく超えて、世間全体を巻き込んだ社会問題となっています。

(中略)

つまり、申立人の行為は単なる悪ふざけで許される範疇を大きく超えたものであるため、社会から相応の対応や反応がなされることは当然と言えます。

本件でも、申立人の行為が原因で被害店舗は設備の総入れ替えを余儀なくされており、経済的損失という観点だけに着目しても実害が生じてしまっています。

この事実がある以上、「申立人の行為には悪質性がなく、多少羽目を外した悪ふざけ程度」などという主張が罷り通るはずがありません。

公益目的を有している

本件動画を公表することには2つの公益目的があります。

誤同定された被害者の冤罪を晴らす

本件動画では「××(申立人の名前)」という声とテキストが確認できることから、申立人の苗字が××であると推測されます。

しかし、フルネームまでは明らかにされなかったことで、ネット上では、本件とは無関係の人間が当事者として誤同定されているのです。

(中略)

つまり、ネット上では申立人とは全くの別人が迷惑行為の犯人として名指しされているのです。

本件記事ではその事実に触れており、ネット上で指摘されている人物が本件とは無関係であることを主張しています。

そのため、本件サイトは「世俗的興味に関してネット上の情報を収集したものに留まる」わけではなく、むしろ、誤同定を是正し、冤罪を晴らすという公益目的を有していると言えます。

本件投稿を見れば、ネット上で指摘されている人物が申立人とは別人であることが分かり、誤情報の拡散防止に寄与することになるため、本件動画を公表することには合理的な必要性があり、公益性があることは明らかです。

さらに言えば、本件動画による冤罪被害は炎上直後から発生しているものであるため、それが誤同定である事実を火急的速やかに訂正する必要があることから、本件動画を公表し、その事実に言及することには緊急性もあります。

模倣犯の発生を未然に防ぐ効果が期待できる

本件行為は犯罪性を孕むものです。

当人にそのような意思がなくとも、当該行為によって店側に損害などを生じさせれば、業務妨害罪などの犯罪が成立し、当事者が法的責任を追及される可能性があります。

かねてより問題視されている迷惑行為ですが、これらの事件において最大の問題点は、当該行為が犯罪であるという事実を当事者が認識していないことです。

罪の意識が希薄どころか存在すらしていないため、当人は幾度となく迷惑行為(犯罪)を繰り返す恐れがあります。

本件行為はその最たる事例であり、また、撮影者の「やっぱり××」との文言からも、申立人が以前から同様の行為に及んでいたことが読み取れます。

この種の犯罪は罪の意識が欠如していることから発生するため、本事案を取り上げることで問題の重大さを世間に周知させることができ、それによって模倣犯の発生を未然に防ぐ効果が期待できます。

この点を考慮すれば、本件動画を公表することが不必要・不合理とは言えず、むしろ、それを公表することは公益に寄与することになります。

本件動画を公表することには正当性(必要性)がある

確かに、本件動画を掲載せずとも、本件について言及することは可能です。

ただ、本件動画も掲載することにより、本件投稿の正確性や信憑性を高めることができます。

例えば、「〇〇という迷惑行為に及んだ」と記載しただけでは、実際にはどのような態様で、どのような目的で行為に及んだのかは分かりません。

しかし、本件動画を公表することで、行為の態様や目的などを正確に伝達することができます。

また、読者が自分で動画を視聴することで、撮影当時の状況や当事者らの言動や表情などの様子を正確に把握することができます。

例えば、本件動画の内容を簡潔にまとめると、「男性が〇〇という迷惑行為に及んだ」と言うことができます。

ただ、この表現だけでは男性の行為が自発的なのか、他者から強制されたのかを読み取ることまではできません。

本件行為に及んだ経緯が自発的なのか、それとも他者から強制されたものなのかで事件の様相が180度異なるものになることは明らかです。

このように文字だけで情報を伝達しようとした場合、その解釈を巡って読者の間で差異が生じてしまうのです。

そして、この解釈の差異は情報が伝播(拡散)する中で次第に大きなものになり、最終的には実態から大きく乖離してしまうことも珍しくありません。

そうすると、情報の正確性は次第に薄れていき、一般読者は何が真実で何が虚偽なのか判断できなくなります。

しかし、本件動画を公表しておくことで情報の確度を維持することができ、デマによる二次被害など予期せぬ事態を防ぐことができます。

事実、本件の炎上に伴って、申立人とは全くの別人が犯人として名指しされています。

もし本件動画の公表がなければ、いくら記事中でそれを否定しても、それを裏付ける客観的な証拠がないため、記事の内容は信憑性に欠けると言わざるを得ません。

ただ、本件動画を公表していれば、本件行為に及んだ人間が明確になるため、犯人として名指しされた人物が本件とは無関係である事実を読者は知ることができ、そこから誤情報の拡散を留めることが期待できます。

つまり、今回の事件において、本件動画は最も重要な「一次情報」(情報源)であり、それを欠くことは情報の正確性や信憑性を歪めることになるのです。

この他にも本件動画には店名が記載されているため、本件とは無関係な店への風評被害を防ぐという目的も存在しています。

加えて、情報源である本件動画を掲載しなかった場合、書き手によって悪意ある恣意的な内容に改竄することも可能となります。

前記説示の通り、情報源である本件動画を公表することは記事の正確性(信憑性)を裏付けるためにも必要不可欠なことであり、これに正当性があることは明らかです。

事件を招来したのは申立人である

既に述べた通り、申立人は動画の撮影・公開を黙示的に承諾していたことが認められます。

さらに、その行為が犯罪性を孕む悪質性の高いものであったことを踏まえれば、本件動画が第三者によって公開(告発)されたり、批評されたりすることは容易に予見することが可能であり、そのような反応が起きることは当然です。

そのため、係る事態に発展したとしても、それは申立人の行為による結果として甘受すべきです。

ただ、この点については、申立人から「動画が公開されなければ、権利侵害は発生しなかった」とする反論が想定されます。

しかし、「〇〇がなければ」という仮定の話をするのであれば、全く同じ理屈で「申立人が本件行為に及んでいなければ、動画の拡散・炎上は起きず、権利侵害は発生しなかった」と言うことができます。

つまり、申立人が主張する権利侵害は、全て当人の行為が端緒となっているものであることから、それによる不利益は当然に本人が甘受すべきであることは明らかです。

事実、本件行為について代理人は「活動内容は批判されるべきものとは言える」と述べ、本件動画が批判の対象であることを認めています。

そうすると、動画の拡散や批判は社会通念上相当であり、それらは事件の端緒である申立人が甘受すべきであると言えます。

このことからも、申立人の肖像権が侵害されたとしても、それは受忍限度内に留まるものと考えるべきです。

なお、代理人は19歳(当時)という年齢を持ち出していますが、19歳という年齢に達していれば、「やっていいこと」と「やってはいけないこと」の分別がついているはずです。

少なくとも、本件行為は代理人までもが「活動内容は批判されるべきものとは言える」と認めていることから、「やってはいけないこと」であることは自明です。

さらに言えば、申立人が本件について謝罪したのは「動画が炎上したから」であり、罪の意識から出たものではありません。

つまり、現在の年齢(21歳~22歳)に達していても、今回の炎上が起きるまで、申立人は自身の行為が孕む犯罪性や、それが世間から批判されるべきものであるという事実に無自覚だったことになります。

このことから、本件は年齢を理由に発生したものではなく、申立人らの人間性によって惹起されたものと評価するのが相当です。

また、事態の重大さは結果を以て判断すべきであり、「若年だから」という理由だけで悪質性が無いと考えるのは、加害者側の立場のみに立脚した身勝手な理屈であり、あまりにも公正さを欠くと言わざるを得ません。

確かに、本件記事では問題の動画を掲載してこそいますが、申立人への人身攻撃などには及んでおらず、その内容は「××店で迷惑行為が発生したこと」や「無関係の人物が犯人として誤同定されていること」を主眼としています。

このことから、本件記事は意見・論評の域を逸脱するものではなく、さらには公共性・公益目的があることを踏まえれば、仮に申立人の権利が侵害されていたとしても、上述した内容から、当人の権利は制限されるべきです。

自身にカメラが向けられている状況下でそれを拒むことを一切せず、それどころか、申立人自らが嬉々として世間の批判を惹起する行動に及んでいることから、本件は申立人自身が招来したものであり、本件記事に責任を求めるのは失当です。

本件が申立人による自招事件である以上、肖像権の侵害などの不利益が発生したとしても、それらは受忍限度内として甘受すべきであるか、公共性・公益目的との兼ね合いから、権利侵害とは言えないと評価されるべきです。

なお、これは申立人が撮影・公開について同意していなかったことが客観的な証拠によって証明された場合でも同じです。

本件動画は犯罪性のある行為を収めたものであり、それによる社会への悪影響や、模倣犯を未然に防ぐという点を考慮すれば、個人の権利よりも公共性や公益が優先されるべきです。

結論

上記で述べた通り、本件記事による申立人への権利侵害はありません。

仮に権利侵害があったとしても、それは申立人の自招行為による結果であり、なおかつ公共性および公益なども総合的に考慮すれば、本件投稿の違法性は阻却されるべきです。

以上のことから、発信者情報の開示には応じかねます。

まとめ

本記事では、肖像権侵害を理由とした発信者情報開示請求の回答書の書き方をご紹介しました。

しかし、先述した通り、肖像権侵害には明確な違法性阻却事由がなく、個々の諸事情を勘案して違法性の有無が判断されます。

そのため、もしあなたの元に肖像権侵害を理由として発信者情報開示請求が届いたら速やかに弁護士に相談することを強くお勧めします。

私の場合、発信者情報開示請求の段階だったので回答書は自分で書きましたが、これが訴訟に発展していたら弁護士に相談していました。

発信者情報開示請求が届いたら安易に自分で判断するのではなく、法律のプロに相談した方が賢明です。

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