こんにちは。KYOです。
今回は、発信者情報開示請求訴訟のお話です。
前回の記事では私が複数回に亘って発信者情報開示請求を受けていたことをお話しました。
実は、この内の1件が名誉毀損を理由に訴訟にまで発展してしまったので、今回のその経緯と、名誉毀損型の回答書の書き方について解説いたします。
●肖像権侵害で発信者情報開示請求が届いたので自分で書いた件
発信者情報開示請求訴訟に至った経緯
まず発信者情報開示請求が訴訟沙汰にまで発展した経緯ですが、きっかけは”ある人物X(男性)”の不倫疑惑でした。
事件を特定されないため時折フェイクを入れておりますが、事件の大枠としては事実です。
ある日、週刊誌によって匿名の不倫疑惑の記事が掲載されました。
その不倫疑惑が浮上した男性の実名こそ出てきませんでしたが、記事には男性の特徴や経歴が掲載されており、ここから不倫の当事者としてXの名前がネット上で取り沙汰されるようになったのです。
その結果、まとめサイトやSNSを中心にXの名前や顔写真が拡散される事態になってしまいました。
しかし、こうして拡散された情報は全て憶測でしかなく、客観的な証拠は一切存在していませんでした。
こうした事態に警鐘を鳴らすべく、当時管理していたサイトで本件について言及し、Xに関する憶測を拡散しないよう呼びかけたのです。
当然、私はXが不倫をしていたなどととは述べておらず、むしろ、そのような不確定情報を拡散する行為の危険性を説いていました。
ところが、この記事を公開してから約1週間後にプロバイダ(エックスサーバー)から発信者情報開示請求の通知と記事の削除を求める要請が届いたのです。
私自身はXの名誉を毀損したことはしていない自負があったため、発信者情報の開示には同意しない旨を回答しました。
ただ、記事の削除には応じており、これで一件落着かと当時は思っていました。
ところが、この通知から約9ヵ月後の2020年4月3日に、今度はエックスサーバーから郵便物が配達証明付きで届いたのです。
ここからが数年に亘って展開する裁判生活の幕開けとなりました。
エックスサーバーから訴状の副本が届く
実際に受け取った郵便物がこちらです。
通常の郵便物であればポストに投函されるだけですが、この郵便物は手渡しでの受取となりました。
重要な郵便物は手渡しで行われると聞き及んでいたことから、この時点で悪い予感がはたらいたことは言うまでもありません。
エックスサーバーから届いた郵便物には厚みがあり、数枚の書類が在中していることは容易に予想がつきました。
意を決して開封すると、発信者情報開示請求の訴訟が提起されたことが記されていたのです。
在中書類の中には「訴状の副本(コピー)」と「請求の趣旨」があり、私は裁判への対応を余儀なくされることになりました。
ただ、訴訟が提起されたといっても、実際に訴えられているのはプロバイダのエックスサーバーであり、私自身ではありません。
しかし、原告(相手方)が訴訟にまで踏み切っていることを踏まえると、これは単なる脅しではなく、最終的には私に対して損害賠償請求の訴訟を起こすことを想定していることになります。
もしこの裁判でエックスサーバーが敗訴してしまえば、私の個人情報が原告に渡ってしまい、今度は私を訴えてくる可能性があるというわけです。
そのため、私は原告の主張に適切に反論すべく、名誉毀損の構成要件および名誉毀損を免れる条件(違法性阻却事由)について徹底的に調べて上げることになりました。
以下では私が作成した回答書を一部掲載しますので、今後の参考にして頂ければ幸いです。
名誉毀損の構成要件
名誉毀損が成立するためには「公然性」「事実の摘示(てきし)」「社会的評価の低下」という3つの条件を全て満たさなければなりません。
公然性とは?
公然性とは「公の場」という意味なので、ネットという世界に開かれた空間は正にこれに該当します。
公の場と聞くと現実世界に限定されるような印象を抱きますが、非現実世界でも公然性は存在するため、この点は注意が必要です。
事実の摘示とは?
「事実の摘示」ですが、ここで言う「事実」とは「真実(本当のこと)」という意味ではなく、「具体的な事柄」という意味です。
例えば、「〇〇はブスだ」という表現ですが、ブスかどうかは人によって判断が分かれる曖昧なものであり、客観的な証拠によって真実か否かを判断できないため、「事実(=具体的な事柄)」ではありません。
しかし、「〇〇は整形だ」という表現の場合、整形であるかどうかは客観的な証拠によって、その投稿内容が真実なのか虚偽なのかを判断することが可能です。
このように客観的な証拠によって真実か否かを判断できるものを、司法の世界では「事実」と呼ぶのです。
社会的評価の低下とは?
社会的評価の低下は読んで字のごとく、その人の名誉や評判などの社会的信用が傷つくことです。
ただ、実際に社会的評価が低下したのかどうかという点については双方の主張を聴取した上で、裁判所が判断するため、ケースバイケースとなります。
もし名誉毀損を理由に発信者情報開示請求訴訟を起こされたら、「公然性」「事実の摘示(てきし)」「社会的評価の低下」の全てまたはその内の1つを否定する形で反論していきます。
名誉毀損が免責される場合
たとえその投稿が名誉毀損に該当するとしても、例外的に名誉毀損を免れるケースが存在します。
それは当該投稿が「公共性」「真実性(真実相当性)」「公益性」を全て満たす場合です。
以下では、それぞれの条件について解説すると共に、実際に私が作成した回答書を掲載します。
公共性とは?
まず公共性とは、「社会全体に関わる問題」という意味です。
例えば、一般市民が誰かと不倫していることを暴露したとしても、いち市民の私生活が社会全体に大きな影響を与えるとは到底思えません。
また、それを暴露したとしても社会正義が実現するとも思えません。
これに対して、不倫をしていた人物が政治家だった場合はどうでしょうか?
政治家は国民の代表であり、国民はその人の人柄を見て投票します。
つまり、政治家の言動が社会に与える影響力は多大であり、たとえ不倫が私生活上の問題だとしても、社会全体に関わる問題と言えます。
このように一個人の範疇に収まらず、社会全体の利害に係わる問題を公共性と言います。
公共性の書き方
公共性を満たす内容としては、私は次のように回答書を作成しました。
事件の特定を防ぐために、回答書は一部のみを抜粋しています。
また、個人名や団体名は伏字とし、事件の核心部分については省略しておりますので予めご了承ください。
本件に限らず、企業の重役たる人間には、その社会的影響力の大きさから、常に慎重な発言や自制的な行動が求められています。
これは公(仕事)の場に限った話ではなく、普段(私生活)の素行や行動も含めてその人柄が判断(評価)されます。
(中略)
このことから、企業の代表者だったX氏の不貞疑惑について関心を寄せることは、たとえ、それが私生活の問題だとしても、同氏の社会的影響力や責任の重大さを勘案すれば、その疑惑について言及することは「社会の正当な関心事」に含まれます。
(中略)
”現代表”であろうとも”元代表”であろうとも、企業のトップという社会的影響力のある役職を務めた人間である以上、相応の人格が求められる(問われる)ことは、社会通念上、普通のことであり、普段の素行や言動が注目されたり、それらに言及されたりすることは「社会の正当な関心事」です。
真実性(真実相当性)とは?
真実性と真実相当性は似て非なるものなので、本項では分けて説明いたします。
まず「真実性」とは読んで字のごとく、その投稿内容が「本当なのか」という意味です。
名誉毀損は嘘の内容でも成立しますが、名誉毀損を免れるためにはその投稿内容が真実であることを主張・立証する必要があります。
ただ、全てのケースにおいて確実に裏取りを行えるという保証はないため、真実性のみが求められてしまうと、名誉毀損の成立を否定する条件が各段に厳しくなってしまいます。
そこで出てくるのが「真実相当性」という考え方です。
これは「真実だと信じるに足る相当な理由」という意味で、発信者がその投稿をするに当たって、確実な資料や報道などを理由に当該事実を真実だと誤信してしまった事情がある場合に適用されます。
例えば、ある報道機関が「政治家の〇〇には逮捕歴があった」という記事を掲載したとします。
この記事を見たあなたが自身のブログやSNSで「〇〇は過去に逮捕されたことがある」という内容を発信したところ、後日、問題の記事が訂正され、誤報だったことが明らかになりました。
確かに、あなたの発信した内容は虚偽(デマ)だったわけですが、そのような投稿をした理由は報道機関の記事を見たことが原因です。
通常、報道機関は記事を掲載する前に入念な裏取り調査を行っていると考えられているため、これを読んだ人間が誤信してしまっても無理かならぬ事情があるというように裁判所では判断されます。
このケースで説明したように、たとえ虚偽の内容を投稿してしまっても、社会通念上、信頼できる情報源があった場合、「それは誤信してしまっても仕方ないよね」という事情のことを「真実相当性」というのです。
私は真実性に加えて真実相当性についても書きましたが、発信者情報開示請求訴訟の場合、真実相当性は考慮されないのが通例です。
なぜなら、この裁判で実際に訴えられているのは「あなた」ではなく、プロバイダだからです。
プロバイダは問題となる投稿をした当事者ではないため、「真実だと誤信してしまった理由」までは立証する必要がなく、また、裁判所もそのように考えているからです。
ただ、裁判官の心証に影響を当たえる可能性も否定できないことから、真実相当性についても記述した方がいいでしょう。
真実性(真実相当性)の書き方
真実性(真実相当性)を満たす回答書として、実際に私が書いた内容の一部がこちらです。
これを理由に、「事件後も同氏が代表を続けているかのように摘示したことは原告の名誉を毀損する」と主張しているわけです。
このことから、「名誉を毀損された」とする原告の主張を読み解くと、その主張は、以下の2点が「真実である」という前提のもとに成り立っていることが分かります。
〈1〉原告の代表は不貞などしていない(X氏が既に代表を退任しているため)
〈2〉上記の事実から、ネット上の疑惑と原告は無関係である(特に重要な部分)
(中略)
本件記事はX氏に関する真偽不明の疑惑について言及しており、その内容を裏付けなく安易に投稿・拡散することへの危険性を問うものとなっています。
その中で「原告のX」に係わる”疑惑”について以下のように言及しています。
「2人(※X氏と不倫相手のこと)が交際していたという確固たる証拠は何一つ存在していません。」
「不倫相手をレ〇プしたなどとは言語道断です。」
これらの内容を検討すると、「原告の代表者」に関する不貞の疑惑を真っ向から”否定”するものであることが分かります。
つまり、本件記事が意味するところ(主要な部分)は、
「原告の代表は不貞などしていない」(〈1〉と同じ)
「ゆえに、ネット上の疑惑と原告は無関係である」(〈2〉と同じ)
ということであり、これは原告の主張において根幹を成す重要な部分(真実)です。
つまり、本件記事内の内容は、原告が「真実である」と主張する主旨(重要な部分)と”完全に合致”するものとなっています。
(中略)
原告と係わり合いがあった人物の疑惑を否定することは、必然的に原告と疑惑が無関係であることを主張(意味)するものであり、双方の主張する主旨(真実)が同じところに帰結していることが分かります。
このことから、本件記事の内容が「真実」であることは明らかです。
公益性とは?
公益性とは、「投稿の目的」という意味です。
問題となっている投稿について「どんな目的で行ったのか?」という点が最も重要になります。
これは公共性と似通っている部分がありますが、実際には似て非なるものです。
公共性の項目で挙げた政治家を例にとって解説いたします。
政治家が公共性の高い人間であることは先に述べた通りですが、その人物が不倫していることを告発したとしても、場合によっては公益性が認められないケースがあります。
それが私怨や報復目的だった場合です。
確かに政治家は公共性の高い人間ではありますが、だからといってプライバシーなどの権利がないというわけではありません。
そのため、政治家のスキャンダルを告発するにしても、その内容が明らかに誹謗中傷を含むものであったり、報告目的だった場合、その行為には「社会(みんな)の利益のため」という意識が備わっていないと判断されます。
この「社会(みんな)の利益のため」という意識が非常に重要で、この意識の有無によって投稿の目的が「公益」なのか「私欲」なのかが判断されてしまうというわけです。
公益性の書き方
公益性を満たす回答書として、実際に私が書いた内容の一部がこちらです。
ネット上にはX氏に関する流言飛語が飛び交っていますが、それらの疑惑に対して原告が何ら反論・主張していないため、これらの情報が野放しのまま跋扈しています。
いくら真実とは異なる内容であっても、それらが大量に投稿・拡散されてしまえば、デマでさえも真実として認識されてしまう危険性があることは、本件事案に限らず容易に予見することができます。
つまり、ネット上では憶測に基づく不確かな情報が真実であるかのように認識されており、そうした見解が支配的になっているのです。
事実、ネット上ではX氏の疑惑を”明確”に否定すると共に同氏を擁護する見解は、本件記事を除いて1件も確認されていません。
同氏に関する噂が真実であるかのように拡散されている中で、本記事はその噂に疑義を呈する内容であり、さらには不確かな情報を裏付けなく投稿することへの危険性を警告しています。
「一般読者の普通の注意と読み方」を基準にすれば、本記事の内容が
「X氏に関する疑惑を裏付ける確固たる証拠はない」(=原告と疑惑は無関係である)
「不確かな情報を安易に投稿・拡散することは危険である」
ということを意味していることは容易に理解できます。
そのため、本件記事によってデマや誹謗中傷の投稿・拡散を思い留まったり、情報を精査することの重要性や名誉毀損に対する理解の高まりが期待できます。
このことから、本件記事に公益性があることは明らかです。
まとめ
本記事では私の体験談をベースに、名誉毀損を理由として発信者情報開示請求の回答書の書き方について解説しました。
ただ、これは私の事例に過ぎず、全てのケースに当てはまるわけではありません。
そのため、本記事の内容はあくまでも参考例に留めておき、実務としては信頼できる弁護士からの助言を受けるようにして下さい。
ちなみに、この裁判はプロバイダ側の勝訴に終わったので、私の個人情報が原告に開示されなくて済みました。
しかし、原告が最高裁まで上告してくるなど相当しつこかったので、もう裁判はコリゴリです(笑)
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